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東京地方裁判所 昭和46年(むのイ)933号 決定

被疑者 丸の内警察署留置番号第三〇号こと氏名不詳の男 外八名

決  定

(被疑者氏名略)

右の者らに対する各公務執行妨害、兇器準備集合被疑事件について、いずれも昭和四六年六月二八日東京地方裁判所裁判官がした各勾留期間延長の裁判に対し、同年七月二日弁護人名義で弁護士永野貫太郎からそれぞれ準抗告の申立があったので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件各準抗告の申立を棄却する

理由

一、各申立の趣旨および理由の要旨

(一)各申立の趣旨

原裁判を取消す旨の裁判を求める。

(二)各申立の理由の要旨

(イ)本件勾留の理由、必要性はない。

(ロ)勾留延長の必要性も全く存しない。

二、 当裁判所の判断

(一) 本件各準抗告の申立は弁護人永野貫太郎名義でなされたものであるが、同弁護士が被疑者らの弁護人として適式に選任されたものであるか、否かについて検討する。

(二) 起訴前における被疑者の弁護人選任行為の方式が起訴後におけるそれのごとく厳格な要式性を要求されているものでないことは、刑訴規則一七条、一八条からみて明らかなところであるが、それが全く自由な方式をもって許されるものであるか否かは別として、少なくとも弁護人選任行為が被疑者の訴訟行為としての意思表示である以上、それの向けられる対象(捜査機関、裁判官、裁判所等)に対して直接なされなければならないと解すべきところ、本件の申立てについてこれをみるに、当裁判所に対しては単にその申立書において、申立人が当該被疑者から接見の際口頭で弁護人に選任されたというに過ぎず、これをもって直ちに適法な弁護人選任行為と認めることは到底不可能であり、またそれ以前に他の機関に対して適法にこれがなされたものと認むべき痕跡が全くない本件においては、いかなる理由をもってしても申立人である弁護士永野貫太郎が本件各被疑者の弁護人であると認めることはできない。

もっとも被疑者冨貴塚毅、同渡辺孝司、同井ノ口雅雄および同黒野義久についての各申立書の末尾には弁護人選任届のコピーが添付されており、これによって申立人がいかなる事項を疎明しようとしているのかその真意を捕捉することはできないが、もし被疑者が書面をもって弁護人の選任行為を行なうのであれば、その原本の提出をもってそれを行なうのが当然である。

(三) 以上のとおりであるから、申立人弁護士永野貫太郎を本件各被疑者の弁護人として取り扱うことはできず、したがって本件各申立はいずれも不適法であるから、刑事訴訟法四三二条、四二六条一項前段をそれぞれ適用して主文のとおり決定する。

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